《映画感想》新聞記者たちが巻き込まれにいく数奇な出来事たち『フレンチ・ディスパッチ』
だいぶ空いちゃいましたが、『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』と同じ日にそのまま『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』を観てきました。とにかく名前が長いwwウェス・アンダーソン監督は数年前に『グランドブダペスト・ホテル』を観て以来、完全にハマってしまい、ほぼ全ての映画を視聴しています。今回もだいぶ予告編から期待させられていました!
※ネタバレありです。
- ◆IN BRIEF 自転車レポーター【地元紹介】◆
- ◆STORY#1 確固たる名作【芸術と芸術家】◆
- ◆STORY#2 宣言書の改訂【政治/詩】◆
- ◆STORY#3 警察署長の食事【味と風味】◆
- ◆感想総括◆
◆IN BRIEF 自転車レポーター【地元紹介】◆
オーウェン・ウィルソン演じる自転車レポーターが、『フレンチ・ディスパッチ』の編集部の置かれた土地であるフランスのアンニュイ=シュール=ブラゼの街をサイクリングしながら紹介していく。
3つの物語《記事》が始まる前に、これから始まる話の世界観を示す役割も担っているように感じました。元々がどういう土地で、その名残りから今はこういう名前になっている、という建物や地名の歴史を面白おかしく描いていく対比のシーンは非常に愉快でした。ここで世界観に心奪われた人は多かったのではないでしょうか。
また、ウェス監督の古くからの友人であるオーウェン・ウィルソンが切込隊長の如くこのストーリーの語り手を担うのも考え深い。
不道徳な闇の影はどんな街にもあるもので、それも含めても、魅力的なアンニュイの街に住んでみたいものですね。
というか、改めて思うとカタカナから直訳した時の“アンニュイ=シュール(退屈でシュール)”って言葉凄いな。フランス語だとまた違うのかもだけど。
◆STORY#1 確固たる名作【芸術と芸術家】◆
秘めてベネチオ・デル・トロを映画に起用したいと考えていたウェス監督。ついに起用した役は美的天才の殺人犯。
まずここで素晴らしいチョイスですよね笑
生得の気の短さと何処か寂しげな天才を見事に演じていました。また、彼の若い頃の役を『グランドブダペスト』のトニー・レボロリが演じているというのも良い。彼が各地を回って絵を描いていくシーンはジワジワ笑いが込み上げてきます。彼とデル・トロの交代シーンも驚きました。お互いを労りながらカメラの前でその交代劇を行うという…。若い頃の役者から老年の役者への交代であんなに斬新なシーンは初めて見ました笑
また、デル・トロのミューズでモデルを担ったレア・セドゥは、今回も仏頂面が似合ってました笑
美人ではあるのに不機嫌な顔しか思い出せない女優さんですよね…。今回はヌードや体幹が必要になりそうなポーズをこなしたり。それでいて、最後の儚げな退場の仕方は、彼女のキャラクターらしくて凄くハマっていました。
美術商がお金いっぱい出して、売ったりして金儲けしようとしてたのに、刑務所の壁に描いちゃって慌てふためいちゃう、っていうオチも良かったですね。まぁ、結局はそこ自体を輸送して美術館にしちゃうっていう突拍子もない対応で収まりますが笑笑
◆STORY#2 宣言書の改訂【政治/詩】◆
兵役から脱走を図った若者が逮捕されたことに始まった学生運動。カリスマ性を持つリーダーを演じているのは、最強の美形俳優ティモシー・シャラメ。今回はモジャモジャ頭にヒゲを蓄えて、チェスをいっぱいして、独身のおばさん記者に遊ばされたり、会計係の子と恋に落ちたり、大忙し。そんな彼がラストに悲劇的な死を迎えてしまうという、なんとも生き急いで、命まで落としてしまったなぁと言うところ。
また、たびたび登場するカフェも凄く良かったです。外装はゴッホの『夜のカフェテラス』のようないかにもフランスのカフェのようで、内装は黄色を基調として若者たちがジュークボックスやテーブルを囲んで、色々な話に花を咲かせている。彼らの使っていたお店のカップもソーサーも黄色でなにやら店名のようなものが白文字で書かれていました。あれグッズ化してくれないかな笑
また、ウェス監督作品では珍しく、カメラが普通に動くシーンには驚きました。終盤のリーダーと会計係、女性記者が話しているシーン。ウェス作品は静止画と素早いパン(この表現合ってるかな?)が特徴なので、唐突に人物を追うカメラワークになったのにはハッとさせられました。
ストーリーは正直イマイチでしたが、女性記者に弄ばれているティモシーの姿がお茶目だったことやウェス監督がやりたかったことが詰まっているような気がしたエピソードだったので、嫌いにはなれないですね。
◆STORY#3 警察署長の食事【味と風味】◆
いかにもウェス・アンダーソン作品の終盤のてんやわんやした感じだ!と言ったようなお話。警察署長の一人息子が誘拐され、鍵を握ることになるのは伝説のシェフ ネスカフィエの料理。今回、わざわざ料理を取材をしにきたのに、そのネスカフィエは最後の最後までほぼ喋らないというw
料理も色々出てきましたが、あんまり何が出てきたか覚えてないんですよね…。
料理よりもネスカフィエが料理を作る際に何やら小刻みに動き、後ろから火が出ているという演出が非常にコミックっぽいなぁ、と思ってたら、終盤のカーチェイスシーンはアニメ調に唐突に変わりました笑笑
まぁ、何よりこれは料理の記事だったのか…普通に刑事事件の記事やん…というのは、きっと大きなお世話ですね…笑
◆感想総括◆
画面の使い方や世界観はいつも通りのウェス監督らしいもので、今作が監督作10作目ということもあり、お気に入りの俳優さんは全員集合でオムニバス的な作品として一種の節目のような一作なのかなと思いました。
ストーリーに関しては、個人的には『Mr.ファンタスティック・フォックス』や『グランドブダペストホテル』、『犬ヶ島』などが大好きな私としては、メチャメチャ乗れた作品!というわけではなかったです。というのも、セリフ量がとめどなく、そして早いため字幕を追うのに割と必死になるシーンが多かったです。序盤の雑誌編集長の細かい話やSTORY#2の学生たちの話し合いの場も話があまり入ってきませんでした。これはおそらく他作品以上に今回は世界観を語るためか、キャラを深掘りしようとしたためかな、と私は思います。
あとは編集長にはあまりフォーカスが当たらないため、ラストのシーンではあまり感情移入ができなかったので、ここはなんとも難しいところ…と思いました。
それ以外の点でいうと、エンドロールで流れる『フレンチ・ディスパッチ』の今までの刊行されてきた雑誌の表紙はどれも可愛く、グッズ化をホントに懇願したくなるものばかりでした。極度の雑誌マニアであるというウェス・アンダーソン監督らしい最高のセンスだと思うのですが、調べたところ表紙を描いているのは、STORY#4の劇中のアニメーションを手がけているハビ・アスナレスさんという方らしいのでそこは要チェックでした笑
美的センスとシュールさを併せ持つウェス監督らしい映画で、ワンシーンワンシーンを部屋に飾っておきたくなるような映画でした。
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